令和6年4月、労働法に関する2つの注目の最高裁判決が出ました。
①事業場外みなし労働時間制の適用は客観性重視(令和6年4月16日最高裁)
外国人技能実習生の指導員として働く労働者の職場外の業務について「みなし労働時間制」を適用できるかが争われた訴訟の上告審で、4月16日、最高裁は、適用を認めなかった二審判決を破棄し、審理を高裁に差し戻しました。
一審と二審は、原告労働者が訪問先や業務時間を記した業務日報が比較的詳細で労働時間の算定は可能であると判断し、「みなし労働時間制」の適用を否定して事業者側に残業代の支払いを命じました。
これに対し最高裁は、労働者は自ら業務スケジュールを管理し、休憩時間もまちまち、自らの判断で直行直帰することも許されていることなどから、一審、二審が根拠とした業務日報について、正確性が客観的に担保されているものではないとして、実態を反映した記録といえるかを改めて審理すべきとの判断を示しました。
労働基準法では、外回りなどで「労働時間が算定し難いとき」は「みなし労働時間制」を適用できるとし、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定められた時間分働いたとみなすとされていますが、過去の判例から裁判では認められにくい流れがありました。
今回の裁判では、裁判官の補足意見として、労働時間が算定し難いか否かの考慮要素は、過去の判例と変わらないものの、在宅勤務やテレワークを含め、多様化する労働環境において、定型的に判断することの難しさが指摘されており、個々の事例ごとの具体的な事情に的確に着目した上で、「労働時間を算定し難いとき」に当たるか否かの判断を行っていく必要があるとの見解が付されています。
②同意なき配置転換は職種限定契約下では違法(令和6年4月26日最高裁)
特定の職種に限定した雇用契約を結ぶ労働者に対し、使用者が別の職種への配置転換を命じることができるかが争われた裁判で、4月26日、最高裁が「労働者の同意がない配転命令は違法」とする初判断を示しました。
「配置転換」は、同一企業内において労働者の勤務地や職種を変更することで、事業主による人事権の行使として業務命令によって行われるものですが、労働契約で職種を限定して締結した場合は、本人の同意がなければ、原則として職種の変更はできません。
今回の裁判は、労使で職種限定の合意があったものの、当該職種の業務が受注減少により廃止になるため、同一事業所内で欠員が生じていた部門へ配置転換するという人事異動を内示したことに対して、労働者が違法であるとして損害賠償を求めたものです。
一審、二審では「職種限定の合意はあったが、解雇を回避するための配転には業務上の必要性があった」として、配転命令を「適法」としましたが、最高裁では、「職種限定の合意がある場合、使用者の配転命令が権利濫用に当たるか否かを判断する以前に、そもそも使用者には本人の同意なしに配転を命じる権限がない」として、配転命令は「違法」であるという判断が示されました。
今年4月より労働条件明示のルールが改正され、従事すべき業務の変更範囲、就業場所の変更の範囲が明示事項となりましたが、これら労使の合意がますます重要視されることを意味する判断と言えます。